大腸・肛門病の知識 痔プロ.com
Knowledge of Colorectal Disease
STEP2
便失禁
便失禁とはなんですか?

便失禁とは、排ガスや排便を十分にコントロールできない状態のことです。重症度としては、ガスが少し漏れる程度のものから、軟便や固形便が漏れてしまうものまで様々です。便失禁は頻度の高い疾患なのですが、羞恥心のため公になることが少ないのです。ですから便失禁について医師に気軽に相談することが重要です。尿失禁および便失禁は年齢とともに起こる頻度が高くなってきます。
便失禁の原因は?

便失禁の原因にはいろいろなものがあります。原因のうち最も多いものとして出産時の損傷があります。出産の際に肛門括約筋が傷付き、肛門括約筋の強さが低下することで便失禁が起こるのです。またこの時肛門括約筋を支配する神経が傷付くこともあります。この障害は出産後すぐに気付くこともありますが、年をとるまで明らかにならないこともあり、この場合には出産と便失禁との因果関係がはっきりしないことがあります。
肛門や肛門周囲組織に対し手術を行ったり、けがをしたりすることで肛門括約筋を傷つけた場合には、これも便失禁の原因となります。肛門周囲の組織に感染症が起こった場合にも肛門括約筋が傷付くことがあり、そのため便失禁を起こすこともあります。高齢になるにつれ肛門括約筋が弱くなってくるので、その結果、若い時には気にならなかった便失禁が高齢になってから大きな問題になってきます。
液状の便が頻回に肛門から出てくるために、下痢が便失禁に伴うこともあります。もし下痢に出血が伴う場合には、医師の診察が必要となります。腸が炎症を起こしていたり(腸炎)、直腸腫瘍や直腸脱が見つかったりすることがあり、これらの場合には早急に医師の治療が必要となります。
多発性硬化症や糖尿病といった病気は肛門括約筋を支配する神経を障害し、このため便失禁を来すこともあります。
肛門括約筋 左図:正常な肛門括約筋
右図:損傷を受けた肛門括約筋
どのようにして便失禁の原因を見つけるのですか?

まず医師の診察を受け、便失禁の程度とそれが生活におよぼす影響について明らかにします。便失禁の原因の多くは、詳しく病歴を聴取することにより明らかになります。たとえば、過去の出産歴はとても重要です。出産の回数が多かったり、児の体重が大きかったり、鉗子分娩の既往があったり、会陰切開の既往があったりすると肛門括約筋および神経が損傷されていることがあります。時には全身疾患や薬剤が原因となって便失禁をきたすこともあります。
次いで肛門部の診察を受けることになります。これにより肛門括約筋の損傷が容易に明らかになることがあります。
便失禁の原因

分娩時の損傷
事故や手術による肛門括約筋の損傷
肛門領域の感染症
便のつまり
直腸脱
加齢にともなう肛門括約筋の筋力減少
神経の障害(直接の損傷または神経疾患の一部)
肛門領域をもっと詳しく調べるために、他の検査が必要となることがあります。例えば肛門内圧検査では、小さなカテーテルを肛門内に挿入し、肛門括約筋を緩めた時と締めたときの圧力を測定します。この検査によって、肛門内圧がどの程度弱いか、または強いかが明らかになります。また、肛門括約筋を支配する神経が正常に機能しているかどうかを調べるために、他の検査が必要になる場合もあります。さらに、肛門領域に対して超音波検査を行い、肛門括約筋が損傷している領域を明らかにすることもあります。
治療はどのように行うのですか?

注意深い問診、診察、さらに検査を行うことで便失禁の原因と程度が明らかになり、これによって治療方針が決定されます。症状が軽度ならば、食事指導および整腸剤で治療が行われます。肛門括約筋を強くするために、簡単な体操が勧められることもあります。
バイオフィードバックという治療法があり、これによって排便時の肛門領域の知覚を改善し、肛門括約筋を強くする方法もあります。肛門括約筋が損傷している場合には手術が必要となることもあります。直腸領域の炎症性疾患(大腸炎など)が、便失禁の原因になっていることもあります。この場合、原因を治療することによって症状が改善することがあります。時には現在処方されている薬剤を変更することで症状が改善することもあります。
かつては排便コントロールが改善する見込みのない人は人工肛門が必要でした。しかし現在では、人工肛門が必要となることはまれです。現在では人工的な肛門括約筋の研究、開発が進んでおり、治療が困難な便失禁の人にも使われることになるでしょう。
便失禁の治療

食事習慣の改善
整腸剤
原因になっている疾患の治療
肛門括約筋を鍛える運動
バイオフィードバック
手術
人工的な肛門括約筋
★出典:ASCRS
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