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Dr.辻仲の大腸肛門病教室
 
第三回 痔の新しい治療法
■痔核とは

痔の組織は肛門クッション(細動脈静脈吻合結合組織や平滑筋性組織、膨張・収縮可能なクッション)と呼ばれ、便汁やガスが漏れるのを防ぎ、硬い便のときの肛門上皮の損傷から守る役割があります。もともと赤ちゃんの時から3個の肛門クッションがあり、成人では肛門鏡で見ると、前方、右後方、左側に膨らんでいるのが確認できます。つまり痔は当たり前に存在し、重要な解剖生理学的機能があるのです。排便時の出血や脱出は内痔と呼ばれ、肛門管内のクッションが緩み、充血、膨張、滑脱することに起因し、主として排便時の過度のいきみ(怒責)が原因です。痔はそれ自体病気ではありません。痔とは症状そのものに対する治療です。肛門クッションを正常近くへ戻すことが大切なのです。今日では従来の治療法に加えて、新しい機器による治療手技が登場してきました。これらはいろんな原理、作用により効果を表しますが、やはり長所短所があります。簡単に概説します。
■痔核(いぼ痔)治療の原則

腫脹または過度にたるんだ肛門皮膚部にある外痔核や皮垂は切除する以外それをなくすことはできません。これは原則です。内痔核(T〜W度に分類)には、種々な新しい治療法があります。すべてに共通する治療法の原理は、
A)痔核(肛門クッション)への血流の減少
B)緩んだ肛門クッションの処理
が必要です。どんな新しい座薬などの薬剤でもAについてはある程度期待できますが、Bについては対処できません。以下表にしてみましょう。

治療法 原理 効果として類似の
従来法
半導体レーザー 特定波長
色素併用
凝固固定
注射硬化法
 ・アーモンド油
 ・明ばん液
超音波メス
(ハーモニックスカルペル)
超音波振動
組織蛋白凝集
痔核切除
電気的痔核切除
LigaSure コンピュータ制御
双極電流
血管のシール
痔核切除
完全閉鎖型
痔核結紮切除術
PPH 自動縫合器
下部直腸環状切除
肛門クッション吊り上げ
なし
内視鏡的痔核結紮 内視鏡下吸引
ゴム輪痔核結紮
ゴム輪結紮
(経肛門)
東葛辻仲病院



■レーザー

レーザーはハイテクの響きがします。それだけで高等な治療で良さそうに聞こえます。事実、炭酸ガスレーザー、YAGレーザーが痔核治療に用いられました。しかし思ったより効果が悪く、学術発表も比較研究上で良かったという発表もありません。最近、半導体レーザーを用いて痔を治すという話があります。内痔組織内に緑色の色素を注入し、特定波長の光を当てて、内痔組織だけを凝固させるものです。無痛で合理的である反面、大きな血管成分の多い痔核や外痔核には無効と考えられます。また機械が高価なため、乱用される恐れもあります。パオスクレーや明ばん液を注射するのと結果は同等でしょう。

■超音波

超音波メス(ハーモニックスカルペル)は腹腔鏡手術で用いているものです。今日の外科手術ではなくてはならないものです。超音波振動による組織蛋白変性(coagulum)で止血効果を得ることが出来ます。実際の痔核切除では、開放創になりますので、従来の電気メス切除法と効果は同様です。学術的比較研究でも同等であったとの報告です。

■LigaSure

LigaSureは、双極電流をコンピュータ制御して、血管内のコラーゲンを変性させて血管をシールすることで止血します。これも外科手術でよく使用されている機器です。強固な接合効果のため、痔核手術では切除縫合を同時にして完全閉鎖します。これも理想に近いと想像されますが、実際は強固過ぎてその近くの肛門上皮、肛門粘膜が裂けて出血したり、手術部の血流が悪くなりすぎて創治癒が長引くこともあります。

■PPH

PPHは、自動縫合器を用いて下部直腸粘膜を環状に2〜3cm幅切除し、肛門クッションを吊り上げる手術です。自然な肛門クッションはそのまま保存され、元の解剖学的位置に戻すことが原理的効果です。この方法はヨーロッパを中心に多く併用され、日本では辻仲病院を中心に
WEB研究会のメンバーなどが手術を行っています。術後疼痛が小さく、早く仕事に復帰できることは、多くの比較研究で証明されています。しかし、外痔核の著名なものは、これ単独では治せません。また合併症も起こり得るので、よく理解し熟達した医師が執刀すべきです。

■内視鏡

最後に内視鏡を用いて内痔核の結紮療法です。これには内視鏡を反転するか、内視鏡下に斜めに器具を出して痔核を吸引しながらゴム輪でしばります。肛門を拡張する必要が無いので、患者さまの違和感が少なく、また大きめの結紮も可能です。しかし器具が高価で技術も必要であり、肛門鏡を用いてゴム輪治療をするより有用とは考えられません。大腸内視鏡検査のついでに行うのは利便性があるとはいえ、痔核の明確な治療方針とはならないのです。

■要点

これらの新しい治療は日帰り手術を目標としたものですが、実際に日帰りできるものも、日本ではまだ無理すぎるものもあります。それぞれの新しい治療法にも長所短所があり、従来からある治療法にも優れた点が多くあります。出来るだけ多くの方法を理解し、患者さまの症状とニーズに合致した治療法を選択すべきでしょう。専門的に肛門疾患を診療するところは、「日帰り」の可能性と限界についてよく説明し、自分のところで出来ること、出来ないことについて明確にして、患者さまの最高の満足に目標をおくべきです。
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