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Dr.辻仲の大腸肛門病教室
 























第六回 PPH手術成績の差
PPHはその手術原理に基づくと、V度以上の全周性痔核に適応があり、また著しい外痔核成分や痔瘻、裂肛、肛門狭窄を伴う例には施行しないことが原則です。しかし、巨大な全周性脱肛の手術は難しく、また痔核の大きさによる手術成績も明らかではありません。当院で施行した痔核のPPH手術646例を痔核の大きさから3分類し(中指頭大:M、拇指頭大:L、胡桃大:XL)、術後疼痛の経過、術後再発率、および術後6ヵ月と24ヵ月における自覚症状を問診表から比較しました。XL群は全体の10.6%で中高年の男性に圧倒的に多く、手術時間も長いという結果で、統計学的にも他群と比べて差があることがわかりました。またXL群のminimum symptoms(出血なし、疼痛の程度が10段階評価で2以下の状態)の比率はL、M群に比べて術後第2、4、5日において統計学的にも明らかに低いという結果でした。さらにXL群の術後1年以内の再処置率は10.3%でM群の1.5%より明らかに高く、またL群も4.5%でM群より明らかに高いという結果が得られました。これらについても統計学的な差が認められました。しかし術後2年を経過した問診から見ると、排便時痛、排便出血および肛門脱出感についてはXL、L、M群間に有意な差は認められませんでした。約3cm超の胡桃大(XL)の巨大痔核の症例を除けばPPHの術後成績は良好なので、拇指頭大(約2.5cm前後)のV度全周性痔核ならPPH単独で治療し得ると思われます。
■PPHの適応と除外

***適応***

(1) V度以上の痔核
(2) ホワイトヘッド手術後の直腸粘膜脱
(3) 肛門機能障害の小さい不完全直腸脱

***除外***
(1) 偏側性の痔核
(2) 外痔核成分の著明な痔核
(3) 痔瘻や裂肛などを併発している症例
(3) 肛門管が狭い症例

■痔核の大きさからみたPPH症例

分類 症例数(%) 平均年齢 男女比 PPH手術時間
Extra Large(XL) 68(10.5) 56.3 5.8:1 26.3
Large(L) 311(48.1) 56.4 2.9:1 18.6(*)
Medium(M) 267(41.3) 51.3(*) 1.5:1(*) 18.4(*)
(*):P<0.001
1999年9月〜2003年3月

■痔核におけるminimum symptoms(肛門痛2以下で出血なし)の例数


★SCは「半閉鎖法」のことです。また、PPHとは手術期間が異なっています。
■PPH術後の再処置・再手術例

処置の種類 Extra Large(XL) Large(L) Medium(M)
症例数 R.D 症例数 R.D 症例数 R.D
結紮切除 4 (4.5) 5 (5.2) 1 (13)
MC(ゴム輪結紮) 1 (5) 3 (17)
狭窄切開 1 (3) 1 (3) 2 (2.5)
skintag、外痔核切除 1 (6) 5 (5.8) 1 (2)
PAO(痔核硬化療法) 1 (1)
切開排膿 2 (1) 1 (1)
他医にて痔核根治術 1 (10)
1年以内再処置率 10.3% 4.5%(**) 1.5%(*)
(*)XL>M=P<0.001,(**)L>M=P<0.05
R.D:PPH術後再処置までの期間またはその平均値(月数)
■排便時痛の比較

術後6ヵ月(6M)の比較
Extra Large(XL) Large(L) Medium(M)


(n=34)


(n=178)


(n=145)
(-)なし,(+)軽い,(++)中等度,(+++)強度

術後24ヵ月(24M)の比較
Extra Large(XL) Large(L) Medium(M)


(n=15)


(n=61)


(n=54)
(-)なし,(+)軽い,(++)中等度,(+++)強度
*M>L=P<0.05
■排便時出血の比較

術後6ヵ月(6M)の比較
Extra Large(XL) Large(L) Medium(M)


(n=33)


(n=180)


(n=147)
(-)なし,(+)軽い,(++)中等度,(+++)強度

術後24ヵ月(24M)の比較
Extra Large(XL) Large(L) Medium(M)


(n=15)


(n=69)


(n=57)
(-)なし,(+)軽い,(++)中等度,(+++)強度
■脱出感の比較

術後6ヵ月(6M)の比較
Extra Large(XL) Large(L) Medium(M)


(n=32)


(n=149)


(n=122)
(-)なし,(+)ごくたまに,(++)排便時脱出感,(+++)脱出を常に感じる(皮垂を含む)

術後24ヵ月(24M)の比較
Extra Large(XL) Large(L) Medium(M)


(n=16)


(n=69)


(n=58)
(-)なし,(+)ごくたまに,(++)排便時脱出感,(+++)脱出を常に感じる(皮垂を含む)
■結論
3cmを超える巨大痔核を除けばPPHの術後経過は極めて良好で、再発、再処置率も小さいことがわかりました。PPH単独では、拇指頭大を限度としたV度の全周性痔核に最も良い適応がありますが、巨大な痔核については、別途他の術式と比較検討する必要があると思われます。
■参考文献
辻仲 康伸、浜畑 幸弘、松尾 恵五:痔核の大きさによるPPH手術成績の差
. 日本大腸肛門病学会誌56:804-810,2003
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