松尾 芭蕉 持病は、「疝気」と「ぢ」
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俳聖芭蕉(1644〜1694年)は、持病である疝気(胃腸病)と痔疾に終生悩まされました。芭蕉は、「持病」、「疝気」、「下血」、「ぢ」などの言葉を使い、この病気に触れた手紙を何人もの弟子に出しています。
五十歳近い芭蕉は、この二つの持病を抱え、千五百キロの道のりを半年がかりで行脚しました。その「おくの細道」の中の福島県飯塚の宿の部分では、『持病さへおこりて消入斗になん。』と記し、嘆いています。
おくの細道の旅を終えた早々に、『拙者下血痛候而、遠境あゆみがたく、伊賀に而正月初より引込居申候。』(杉風宛)、『持病下血などたびたび、秋旅四国・西国もけしからず《注》と、先おもひとゞめ候。』(如行宛)としたためていて、持病(痔)悪化のため、新たな旅を断念している様子が窺えます。 |
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国立国会図書館デジタルコレクションから転載 |
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痔が悪化したのは、『去年遠路につかれ候間、下血など度々はしり迷惑致候而、・・・』(牧童宛)とあり、おくの細道の旅を原因としています。
その後、『われらぢのいたみもやはらぎ候まゝ、御きづかいなされまじく候。』(智月宛)と小康を得たとも述べていますが、一進一退を重ねました。なお、この書簡だけは、「ぢ」と記載していますが、単に「持病」と書かれていることが多く、「疝気」か「痔」のことかどちらとも判然としない場合があります。
ちなみに、芭蕉の痔は、痔の中でも「切れ痔」だと言われています。
注:けしからず=よくない
参考文献:「新芭蕉講座 第七巻 ─書簡篇─」今栄蔵著、「同 第八巻 ─紀行文篇─」小宮豊隆他著 三省堂、「日本人の病歴」立川昭二著 中央公論社
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