コンパクト版
医心方
医心方による痔の分類、病因、治療法
 
『医心方』《いしんほう》は、平安時代の典薬頭《てんやくのかみ》・行鍼博士《こうしんはかせ》の丹波康頼《たんばやすより》が、中国の隋・唐時代の医書、方術書など百数十篇から諸説を選んで編集し、984年に天皇に献上したもので、現存する最古の医書として有名です。全30巻で構成されています。

康頼原撰本である医心方は、平安時代には失われてしまい、丹波家の後裔が新しい写本を作り、数百年の間、宮中に保管されていましたが、1573年頃半井《なからい》氏に下賜されました。半井氏は代々典薬頭をつとめ、丹波氏とともに、わが国医家の二大派閥でした。その後、半井氏から国の所有となり、1984年に国宝に指定されています。

医心方には、総論、鍼灸から始まり、内科、外科、産婦人科、小児科、精神科、泌尿器科、肛門科、養生ほか現代医学にない錬金術、呪術、占い、妖怪変化対策などもあります。肛門科については、巻七巻性病・諸痔・寄生虫篇の第9章から15章で扱わられています。肛門疾患の分類、病因、そして洗滌薬、内服薬、外用薬、座薬、灸など多くの治療法を記載しています。


このうちの一部を槇佐知子全訳精解「医心方」から引用します。
丹波康頼
医心方の撰者丹波康頼の肖像 
国会図書館デジタルコレクション「医学先哲肖像集」から転載 
 ○第9章 脱肛の治療法
 ・頭のてっぺんのつむじの中に灸をせよ。
 ・鉄精をつけること。
 ・スッポンの頭を焼いて煙らし、すりつぶして粉末したものを使用する。など
他に、炙った麻のくつの底で押し込む方法の記載もあります。

 ○第12章 肛門周囲膿瘍の治療法
 ・豆の汁で墨をすり、これを肛門に入れること。など

 ○第15章 諸痔の治療法
 ・諸痔とは、牡痔《ぼじ》、牝痔《ひんじ》、脈痔《みゃくじ》、腸痔《ちょうじ》、血痔《けつじ》のことをいう。
 ・牡痔は肛門あたりにネズミの乳のような肉を生じ、時々、膿や血が出るものである。
 ・血痔は排便のとき、澄んだ血が次々に出る。
 ・また、気痔は大便が出にくくて出血し、いきむために肛門まで外に出てしまう。しばらくは
  戻そうとしても、容易に入らない。
  など


その他参考文献:山本徳子著「古典医書ダイジェスト」、医心方一千年記念会編集「医心方1000年のあゆみ」

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