コンパクト版
萩原朔太郎
萩原朔太郎と「痔」
 
地面の底に顔があらはれ、
さみしい病人の顔があらはれ。・・・ (詩集「月に吠える」から)
わが故郷に帰れる日
汽車は烈風の中を突き行けり。・・・ (詩集「氷島」から)

などでよく知られる詩人萩原朔太郎も痔でした。娘の萩原葉子が「父・萩原朔太郎」の中で、父の痔について触れていますので、その一部を引用します。

 「こんなに悪いのに! だから言わないことじゃないよ、自分で自分の体をちっとも大事にしないんだからねえ。」
 怒りと、思いやりを交互に混じえたことばを吐きながら、父が
痔ろうのため、点々と落した真赤な血の跡始末しているのだった。
 私も父が、さぞ苦しかったであろうと思われる血を落した後に出合って、びっくりして入口で立ちすくむ時があった。
 余程、悪い時なのであろう、蒲団に腹這いになったまま、しばらく、休んでいるが、そうした時でもたいていは、飲みに行ってしまうのだった。
 この頃、他の白い洗濯物に混じって、見なれない黒い大きな女物のブルマーが干してあるのをよく見た。(祖母が嫌がる父に汚すからと無理にはかせていたのだった。)

 「おっかさん、もう少したのむよ」と父は困ったように言う。祖母は、
 「いくらあったって、どうせ水みたいに飲んでしまうんだろう? 
がわるいのに、だいいち身体に毒だよ。」
萩原朔太郎 肖像
萩原朔太郎
萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち前橋文学館
提供

 昭和十五、六年ころから、父はがかなりひどくなり、そのためか夜など同じ電車に乗り合わせたりするとき、座席の向うに意外に老いた父を見て、ことばもかけられないほど寂しく思うことがあった。

筑摩書房「父・萩原朔太郎」萩原葉子著 昭和五十二年十二月 から引用
一部原文表記と異なる個所があります。

【萩原葉子】 はぎわら ようこ (1920〜2005年)小説家、エッセイスト。代表作:「父・萩原朔太郎」、「天上の花」、「蕁麻の家」など(ウィキペディアより引用)

【萩原朔太郎】 はぎわら さくたろう (1886〜1942年)詩人。1917年、処女詩集『月に吠える』を出版し、豊かな感受性と優れた表現力で孤独・不安・焦燥といった心象をうたい注目を集めた。日本口語詩の完成者として知られ、その与えた影響は大きい。(新潮文庫「萩原朔太郎詩集」のカバーから抜粋)


 
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