コンパクト版
渡辺淳一が描いた痔
 
〜小説とエッセイから〜   
渡辺淳一(1933―2014年)の作品は、整形外科医師の経験を踏まえた「医学小説」をはじめ、「恋愛小説」、「伝記小説」、「エッセイ」など多岐に及んでいますが、特に『失楽園』や『鈍感力』が有名です。
その膨大な著作のうち、三つの小説(『遠き落日』、『静寂の声』、『無影燈』と一つの随筆『新釈・びょうき事典』に、「
」が描かれています。
今回は、このうち2作品を紹介します。「
」と書かれている箇所を中心に下記に抜粋します。)
 
■『遠き落日』 野口英世の伝記小説 〜痔になってお金のないことに気がつく〜
(略)だが借金に慣れていた英世も、さすがにこの年の冬には、自分の金銭への計画性のなさに自分であきれ、これでは駄目だと改めようとした。
 そのきっかけになったのは、この年の秋から冬にかけて悩まされた
痔疾である。もともと英世にはの気があったが、長年の椅子への坐りづめと、この冬の寒さによって一気に悪化してきた。下宿から研究所へ十分とかからぬ道を歩くのさえ辛く、そろそろと歩幅を縮めながら行くので倍以上の時間がかかる。
 医師に診てもらうと即座に入院して手術を受けなければならないという。迷った末、痛みに耐えかねて決心したとき、初めて金がないのに気がついた。(略)


■『新釈・びょうき事典』 メディカルエッセイ 〜お尻にやさしく愛情を〜  
(略)地主はともかく痔主はあまり感心しない。
 だが不幸にして
痔主になったら、以上の諸点を守って、極力、お尻に優しく愛情をもって接することである。
 お尻に異常を感じたら尻込みせず、早めに医師に相談し、日々お尻を清潔に保ち、尻切れとんぼに終わらぬよう努めることが肝要である。(略)
 簡単なことだが、人間は不要な老廃物を体に貯めておいては、健康な生活は営めない。汚い話かもしれないが、排便のあと、自分の排泄したものをしみじみと見ることも大切である。茶色でやや軟らかめなのが最良で、硬くて黒ずんでいるのは要注意である。(略)
 改めてくり返すが、お金は貯めても、便は貯めてはいけない。出し惜しみは、手遅れという不幸を招くだけである。
 あまり美しい話ではないが、不幸なものを毎日、スムースにかつ完全に出してこそ、健康と美しさが保たれるというものである。
(一部原文表記とは異なる箇所があります。)


 
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