■著者 水木 楊《みずき・よう》 1937(昭和12)年、中国上海生まれ。 本名は市岡揚一郎。 自由学園最高学部卒業後、日本経済新聞社入社。 ロンドン特派員、ワシントン支局長などを経て、論説主幹を務めた。 著作は『一九九九年日本再占領』『田中角栄』、『東京独立共和国』など多数。 近作に、電力王・松永安左エ門の破天荒な人生を描いたノンフィクション『爽やかなる熱情』がある。
日経ビジネス人文庫「拒税同盟」 水木楊著 日本経済新聞社 2001年2月1日 第1刷 のカバーから引用
■「拒税同盟」 経営不振にあえぎながら、リストラに取り組まない超巨大企業(=日本政府)。「財政赤字」とうい負債は膨らむばかりだ。このツケは必ず国民に回る。怒れる民は、ついに拒税同盟を結成、強大な権力を相手に戦いの火蓋を切った!衝撃のシミュレーション小説。
同上「拒税同盟」 のカバーから引用
■第十二章 嘘発見器
(略)
被疑者の神経を参らせるため検察は次から次へと巧みな状況を用意する。地裁では検察の勾留請求を認めるべきかどうか被疑者の健康状態などごく簡単な質問をする。三、四分で終ってしまうだが、この短い尋問の順番を待つため数時間がかかる。 コンクリートの部屋に板の長椅子が縦横にずらりと並び、両手錠を嵌められた、たくさんの被疑者たちが病院の待合室で順番を待つように座っている。椅子はクッションがついていないから堅い。一時間で尻が痛くなる。だから、尻の角度を盛んに変えて痛さを我慢せざるを得ない。 「早くしてくれ」 と悲鳴を上げる者がいた。ゴム草履を履いた男で、痔持ちだと訴えている。
刑務官が歩み寄りおとなしくするよう命じる。それでも男は騒ぐ。
「可哀相じゃないか。早くしてやれ」
と怒鳴る者もいる。痔持ちと怒鳴った男を刑務官が連れていく。 しかし、ものの5分と経たぬうちに二人は現れ、椅子の一番後ろに座らされてしまった。要するに騒げば騒ぐほど損をするという仕組みになっている。 だから、みなおとなしく絶望的な表情で座っている。 そのうち昼になった。座ったままの食事である。ワゴンがやってきて食パンと水をくれる。手錠を嵌めたまま食べる。不自由さと尻の痛さと退屈さと惨めさで、もう二度とこんなところに来たくないという気分にさせられる。
(略)
同上「拒税同盟」 から引用
一部原文表記と異なります。
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