あなたは「ことわざ」を間違って理解していませんか? 世間で信じられている正しい用法だけが「ことわざ」ではありません。あっと驚く新解釈が毎日の生活に刺激を与えます。日々、硬直しがちな私たちの脳味噌を、絶妙な文章がモミほぐしてくれます。ただし、実際の「ことわざ」使用にあたっては、じゅうぶん御注意されますように! 解説 青山南
筑摩書房 ちくま文庫「ことわざ 悪魔の辞典」別役実(べつやく・みのる)著、二000年十月十日第一刷発行 のカバーから引用 一部原文表記と異なる部分があります。
[著者]別役 実(べつやく・みのる)
劇作家。1937(昭和12)年満州(中国東北部)生まれ。早稲田大学政経学部中退。「マッチ売りの少女」「赤い鳥の居る風景」で岸田戯曲賞、「不思議の国のアリス」「街と飛行船」で紀伊国屋演劇賞、「諸国を遍歴する二人の騎士の物語」で読売文学賞をそれぞれ受賞。数多くの戯曲集のほか、犯罪などをテーマにした社会評論、洞察とやわらかなユーモアにあふれるエッセイ。童話、絵本などの分野でも多くの著書を持つ。
同上 筑摩書房 ちくま文庫「ことわざ 悪魔の辞典」のカバーから引用 一部原文表記と異なる部分があります。
■ことわざ 悪魔の辞典
「痔」と書かれている箇所を中心に抜粋します。
(略)
【きゅうすればつうず】
「キュー」というのは、ビリヤードで球を突くための棒のことであり、かつて医者は、便秘の患者がくると、これで尻の穴を突いて治した。
(略)
【けいこうとなるもぎゅうごとなるなかれ】
「鶏頭ではなく「鶏口」である点に注目しなければならない。つまりこれは、水平方向における最先端と再後尾であり、最先端が「口」である以上、最後尾は「尻の穴」である。そして生物というものは、「口」より摂取し、「尻の穴」より排泄するのであるから、この言葉は摂取を重んじ、排泄を軽んじていることになる。人が便秘になるのは、このせいに違いない。
(略)
【こけつにいらずんばこじをえず】
最初に「けつ」という言葉があり、後半に「じ」」という言葉があるから、これが尻に出来る疾患─つまり痔について言ったものであることは、誰にでもわかる。それぞれ「こ」がついているのが気になるが、これは美称であろう。「尻」とか「痔」とか、汚いものについて言う時は、「でっかい尻」とか「でっかい痔」とか言うよりは、「小さい」と言った方が、可愛らしく聞こえるのである。これさえわかれば、後は簡単だ。「尻にものを入れたりしなければ、痔になんかならない」のである。
(略)
【じがじさん】
病気道楽のひとつ。痔持ちが、自分自身の痔について、だれかれかまわず吹聴したがること。どうしてそれが楽しいかは、痔持ちになってみないとわからない。
(略)
【ちょうちんもち】
「提灯」を持っているのを「提灯持ち」と言い、「太鼓」を持っているのを「太鼓持ち」と言い、「痔」を持っているのを「痔持ち」と言い、「世帯」を持っているのを「世帯持ち」と言う。何を持つのも勝手だが、どれを持つのが一番いいかというと、やはり「世帯」だろう。昔から「世帯持ちがいい」と言われている。
(略)
【なくことじとうにはかてぬ】
「泣く子」に「勝てない」のは誰にでもよくわかるが、「痔」と「鵜」に「勝てない」のはよくわからないと言われている。しかし、「痔持ち」に言わせると、「痔には勝てない」と言うし、鮎釣りの名人に言わせると、「鵜には勝てない」と言う。つまり、後半については、専門家の見解なのである。
(略)
同上 筑摩書房 ちくま文庫「ことわざ 悪魔の辞典」からすべて引用 一部原文表記と異なる部分があります。
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