痔の散歩道 痔という文化

肉体百科(群ようこ)
油抜きダイエットでしもやけができる! もりもりと盛り上がる二重うなじの恐怖、ひじの梅干し化の防ぎ方、便秘とおならのどちらを選ぶか、「三つつむじ」の秘密、げっぷで返事する母、いいふくらはぎと悪いふくらはぎ等々、肉体にまつわる面白話を満載。人間の体にこんなドラマがあったのか、と目からウロコが落ちる103篇。

文春文庫「肉体百科」群ようこ著 文藝春秋 1997年6月15日 第9版 のカバーから引用

[著者紹介]群 ようこ(むれ・ようこ)
昭和29(1954)年東京生まれ。日本大学芸術学部卒業後、広告代理店、編集プロダクション、本の雑誌社勤務等を経て独立。著書には「午後零時の玄米パン」(本の雑誌社)「無印良女」にはじまる無印シリーズ(角川書店)「編物術 毛糸に恋した」(晶文社)「トラブルクッキング」(集英社)「本棚から猫じゃらし」(新潮社)「本取り虫」(筑摩書房)「あたしが帰る家」「(ねこ)海鞘(ほや)」(文藝春秋)など、多数ある。

同上「肉体百科」 のカバーから引用


この「肉体百科」は、肉体にまつわる自身の体験などをユーモアを交え、103篇のお話が書かれています。そのうちのひとつが「
」をテーマにしたお話です。長くなりますが、下記に引用します。


「肉体百科」の「
」篇

 私が物を書く仕事をするようになって、いちばんよかったと思うのは、痔主(じぬし)でないことだった。何人か集まって、自分の体調について話をしていると、いまひとつ歯切れの悪い人がいる。
「どこか悪いの」
 とたずねても、
「よくはないけど悪くもない」
 などといって、ごまかそうとする。しつこくたずねてやっと、
「実は
痔主なんだ」
 と告白してくれるのである。
 あまりに痛くて、ふつうの椅子(いす)に座ることができず、(しり)の山の片方を上げながら、アクロバット的姿勢で原稿を書いた、という話も聞いたことがある。締め切りが迫って休むこともできず、死ぬ思いで原稿を書き上げ、編集者に自宅に原稿を取りに来てもらった。ところが、部屋から玄関まで歩いていくのもつらくて、片手に原稿の束を持ち、
「できたぞ!」
 といいながら、廊下をはいつくばっていったという、涙なしには聞けない話をしてくれた人もいた。
 自分の
はどのような状態かを懇切丁寧に説明してくれた人もあった。それは私にとって信じられない、人体の変化であった。
「そんなふうになったら、本当につらいだろうなあ」
 何の因果か、
痔主になってしまった人々に、私は心から同情してしまったのである。
 先日、女友だちの父上が
の手術をした。本人は嫌がったのだが、家族みんなで説得して、半分、無理やりに入院させてしまったらしい。体のどこにもメスをいれたことがない私は、あんな柔らかいところを切るというだけでも、背筋《せすじ》が、
「ひょ─」
 と寒くなる。おまけに一日一回は必ずお世話になる部分でもあるし、切ったあとも、なんだかとても治るのが遅い場所のような気がする。いつまでたっても、ぐずぐずと湿っぽい感じがしてくるのである。
 父上の場合は、術後の経過もすこぶるよくて、以前よりはずっと快適になられたそうである。しかし、会社の勤務に復帰しても、治療はまだ続いており、日常は女性用のナプキンを、患部にあてているようにといわれた。
 まさかスーパー・マーケットの売り場で、父上がそういう類いのものを物色するわけにもいかないので、友だちと母上がいろいろな種類のものを買い集めて、父上に進呈した。片っぱしから試した結果、彼は、
「ウィスパーはいい。最高だ」
 といって、おまえも使えと彼女にいったそうである。満面に笑みを浮かべている父親を見て、
「まさか父親とこんな話をするとは思わなかった・・・・・・」
 と娘は嘆いていたのであった。


同上「肉体百科」 から引用

一部原文表記と異なります。


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