違星北斗(いぼし・ほくと)
1901〜29 北海道余市郡与一町(現、余市市)生。アイヌの歌人・社会運動家。
1927年頃から薬の行商人として北海道各地のアイヌコタンを廻り、アイヌの地位向上をめざして同族の人々に自覚と団結、修養の必要を説くとともに、自己表現のために短歌をつくりはじめる。1929年、肺結核のため死去、享年27。
著書に、死後刊行された『コタン─違星北斗遺稿』(1930年)がある。
大和書房「民衆史の遺産 第一三巻 アイヌ」 編者 谷川健一他 二〇一八年七月一日 初版発行
から引用
■北斗帖
私の短歌
私の歌はいつも論説の二三句を並べた様にゴツゴツしたもの許りである。叙景的なものは至って少い。一体どうした訳だろう。
公平無私とかありのままにとかを常に主張する自分だのに、歌に現われた所は全くアイヌの宣伝と弁明とに他ならない。それには幾多の情実もあるが、結局現代社会の欠陥が然らしめるのだ。そして住み心地よい北海道、争闘のない世界たらしめたい念願が迸り出るからである。殊更に作る心算で個性を無視した虚偽なものは歌いたくないのだ。
(略)
ガツチヤキの薬を売つたその金で
十一州を視察する俺 註、ガツチヤキは痔
昼飯も食はずに夜も尚歩く
売れない薬で旅する辛さ
世の中に薬は多くあるものを
などガツチヤキの薬売るらん
ガツチヤキの薬をつける術なりと
北斗の指は右に左に
売る俺も買ふ人も亦ガツチヤキの
薬の色の赤き顔かな
売薬の行商人と化けて居る
俺の人相つくづくと見る
「ガツチヤキの薬如何」と人の居ない
峠で大きな声出して見る
ガツチヤキの薬屋さんのホヤホヤだ
吠えて呉れるな黒はよい犬
「ガツチヤキの薬如何」と門に立てば
せゝら笑つて断られたり
田舎者の好奇心に売つて行く
呼吸もやつと慣れた此の頃
よく云へば世渡り上手になつて来た
悪くは云へぬ俺の悲しさ
此の次は樺太視察に行くんだよ
さう思つて海を見わたす
世の中にガツチヤキ病はあるものを
などガツチヤキの薬売れない
(略)
或時はガツチヤキ薬の行商人
今鰊場の漁夫で働く
(略)
同上「民衆史の遺産 第一三巻 アイヌ」から引用
一部原文表記と異なります。
|