旧約聖書に「痔」が記されているといわれています。
申命記とサムエル記です。
いくつか聖書をあたりましたが、申命記に「痔」の文字が記されていましたが、探し方が足りないのかサムエル記の本文に「痔」の記載のあるものが見当たりませんでした。しかし、サムエル記では「痔」と「腫れ物」とは密接に関係しますので、「腫れ物」と記載された個所を引用しました。
申命記とは、
「聖書の最初の五つの書は「モーセ五書」(申命記も含まれる。)と呼ばれ、神の民が、シナイ山で結ばれた契約にふさわしく生きるのに必要なことが含まれていることから、新約の福音書でこれらの書は「律法」といわれおり、申命記は、エジプト脱出と荒れ野滞在中の出来事の意味と、約束の血に入る際に守るべき神の律法を述べながら神への誠実を説く、長く温かい勧告の書です。」
サムエル記とは、
「モーセ五書に、イスラエルの民の歴史的な体験を物語る文書が続く。サムエル記は、その一つで、部族の統合がいかになされ、サウルとダビデによる中央集権がいかに形成されたかを物語っています。」
上記の記述は、日本聖書協会「聖書 新共同訳」から 引用
■ 申命記に記された「痔」、「腫れ物」
○まず、フランシスコ会聖書研究所訳では、 申命記27章27節
「ヤーウェは、エジプトのはれもの、痔、潰瘍、疥癬とをもってあなたを打たれ、あなたはいやされることはない。」
○また、日本聖書協会の口語訳では、
「主はエジプトの腫物と潰瘍と壊血病とひぜんとをもってあなたを撃たれ、あなたはいやされることはないであろう」
○また、〈旧約聖書V〉「民数記 申命記」(岩波書店)には、 「ヤハウェは、エジプトの膿疱、腫れ物、かさぶた、皮癬で撃ち、あなたが癒されることはありえない。」
この〈旧約聖書V〉「民数記 申命記」の訳注には、「ケレーではここを『痔』と読んでいる。(サム上五6の注参照」とあります。(下記のサムエル記の項でその注を引用します。)
■ サムエル記(上)に記された「腫れ物」
○まず、フランシスコ会聖書研究所訳では、
サムエル記上5章6節
「さて、ヤーウェの手はアシドドの人々の上に重くのしかかり、彼らを悩ませた。ヤーウェがアシドドとその周辺に腫れ物をはやらせたのである。」
5章9節
「櫃が移されると、ヤーウェは町の人々を老いも若きも討たれたので、人々の間に腫れ物が広がった。」
5章12節
「死ななかった人々も腫れ物に悩まされ、助けを求める町の叫びは天にまで達した。」
6章4節
「ペリシテ人が、『その神に対する償いの供え物として何を送ればよいのだろうか』と尋ねると彼らは答えた。『ペリシテ人の領主の数に合わせて、金の腫れ物と金のねずみ五匹です。同じ災いが、あなたがた全員とあなたがた領主たちに起こったからです。
6章5節
「あなたがたは、腫れ物をかたどったものと、地を疫病で汚しているねずみをかたどったものとを作り、イスラエルの神に栄光を帰しなさい。おそらく、イスラエルの神は、あなたがたとあなたがたの神々、そして あなたがたの地の上にのしかかっていた手を軽くしてくれるでしょう。」
5章11節
「次にヤーウェの櫃、および、金のねずみと腫れ物をかたどったものとを入れた箱を車に載せた。」
5章17節
「ペリシテ人がヤーウェに対する償いの供え物として送った金の腫れ物は次のとおりである。すなわち、アシドドのために一つ、ガザのために一つ、アシケロンのために一つ、ガテのために一つ、エクロンのために一つであった。
このフランシスコ会聖書研究所訳の5章の訳注に、「本節およびこれに続く章において、ユダヤ教の伝承では、『腫れ物』(厳密には腫瘍)を『痔』に置き替えている。しかし、本来の意味」は、ここで訳出したように、通常ねずみを媒介とし、そのねずみを刺したのみが人間に感染させる腺ペストであろうと思われる。腺ペストは通常致命的な病気である。」と書かれています。
○また、本聖書協会の新共同訳では、
5章6節
「主の御手はアシュドドの人々の上に重くのしかかり、災害をもたらした。主はアジュドドとその周辺の人々を打って、はれ物を生じさせられた。」
5章9節
「箱が移されて来ると、主の御手がその町に甚だしい恐慌を引き起こした。町の住民は、小さい者から大きい者まで打たれ、はれ物が彼らの間に広がった。」
5章12節
「死を免れた人々もはれ物で打たれ、町の叫び声は天にまで達した。」
6章4節
「ペリシテ人は言った。『それでは、返すにあたって、賠償の献げ物は何がよいでしょうか。』彼らは答えた。『同一の災厄があなたたち全員とあなたたちの領主にくださったのだから、ペリシテの領主の数に合わせて、五つの金のはれ物と五つの金のねずみにしなさい。」
6章5節
「はれ物の模型と大地を荒らすねずみの模型を造って、イスラエルの神に栄光を帰すならば、恐らくイスラエルの神は、あなたたち、あなたたちの神々、そしてあなたたちの土地の上にのしかかっているその手を軽くされるだろう。」
6章11節
「主の箱を車に載せ、金で造ったねずみとはれ物の模型を入れた箱も載せた。」
6章17節
「ペリシテ人が、主に賠償の献げ物として送った金のはれ物は、アシュドドのために一つ、ガザのために一つ、アシュケロンのために一つ、ガトのために一つ、エクロンのために一つである。
」
○また、〈旧約聖書D〉「サムエル記」岩波書店には、 5章6節
「ヤハウェの手はアシュドドの人々の上に重くのしかかり、彼らを大いに悩ませた。ヤハウェはアシュドドとその周辺の人々を腫れ物で撃って悩ましたのである。」
この「腫れ物」に対し、次のとおり訳注が記載されています。
「サム上六4−5でペリシテ人は、この災いを除くために腫れ物の模型に加えて「ねずみ」の模型を造っており、七十人訳も「彼らの地にねずみが発生し、死と破壊が町中を襲った」ことを書き加えている点から、ねずみが媒介する腺ペストとする意見がある。(ヨセフス『古代誌』D3「赤痢」参照)。それに対し、ヘブライ語本文は「腫れ物」(アフォリーム)を「痔」(テホリーム)と読ませようとしている。後代の編集者あるいは改訂者は、もともとこの箇所にあったねずみに関する言及を削り、読者に「腫れ物」を痔のそれと理解させることで、ペリシテ人に対する嘲笑をさらに強めようとしたものと思われる。サム上六11、17注四」
5章9節 「彼らがそれを回して来ると、ヤハウェの手がその町に非常な恐慌を引き起こし、町の住民を、老いも若きも撃ったので、彼らの間に腫れ物が広がった。」
6章4節 「ペリシテ人の領主の数に合わせて、金の腫れ物五つと金のねずみ五つです。災難があなたがた全員と、あなたがたの領主に起きたからです。あなたがたは、あなたがたの腫れ物の像と、この地を破滅させようとしているあなたがたのねずみの像を造り、イスラエルの神に栄光を帰すならば、・・・(略)」
「ねずみの像」の訳注:疾病の模型を造って神に献げ、癒されることを祈願する、古代世界で広く行なわれた習慣。それを金で造って神の箱と共にイスラエルに送ることで、ヤハウェへの「償い」(3節)の内容はより充実したものになる。
6章11節 「また、ヤハウェの箱を車に載せ、金のねずみと腫れ物の像を〔入れた〕鞍袋も〔載せた〕。」
腫れ物の訳注:原文「彼らの痔」多分、後代の加筆(五6の注参照)17節についても同じ。
6章17節 「ペリシテ人が、ヤハウェに対する償いの供犠として送った金の腫れ物は、次の通りである。」
腫れ物の訳注:原文「金の痔」・11節の場合と同じく、おそらく後代の加筆。
○「ヴェスレアン聖書注解 旧約篇 第2巻 ヨシュア記−エステル記」 編者 ヴェスレアン聖書注解刊行委員会 実務委員長 蔦田 真美 発行者 イムマヌエル綜合伝道団 代表 朝比奈 寛 には、
「偶像を汚されたことに加えて、ペリシテ人たちは痔疾(6、欽定訳)−ヘブル語は、アファル、「はれもの」−で苦しんだ。六11と17では、これらはテコル、「できもの、潰瘍」特に肛門の腫瘍、つまり痔核または痔、と呼ばれている。ペリシテ人は鼠蹊腺腫の伝染流行によって打たれたのであり、痔疾は、この恐ろしい病気の特徴である鼠蹊部のリンパ腺のはれであるという説が有力とされてきた。六5に、罪過のいけにえの一部としての金の「ねずみ」が含まれているのは、この説を支持している。というのは、ねずみやげっ歯類の動物には、この伝染病の媒体として知られているノミがたかるからである。」
と記載されています。
○また、「旧約聖書の医学」(W・エプシュタイン著、梶田昭訳)には、
「はれものはヘブライ語でアファリームといい、ある辞書では「痔核」という訳がついている。ほかにソケイ部リンパ節の腫脹という説も有力」
「たくさんの人々が、急激に発生した痔核によって破滅することがありえるだろうか」
「ペリシテびとの大量死が腺ペストのためと決めることも、さりとてどういう種類の疫病か言明することもできないのである。」
と記載されています。
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